Vol.6 スパルタクス

 

今回このコーナーでは初めてバレエを御紹介します。先日、東京文化会館でボリショイ・バレエ団のスパルタクスを見てきました。昔々カーク・ダグラス主演の同名の映画がありましたが、それはあまりにも昔過ぎて。ソリストの座長公演は別として、内外のバレエ団が日本でやる演目としては、全幕ものなら今でも白鳥の湖、眠れる森の美女、シンデレラ、くるみ割り人形などがメジャーです。ゆえにちょっと食傷気味の私。でも今年はあのボリショイが、日本公演では何と29年ぶりにスパルタクスをやるというので、20000円のチケット代にひーひー言いながらもついに見ました。

ソフィスティケートされたレニングラードバレエ団を透明感のある水に例えるなら、誰も生きてない226年の伝統を誇るボリショイは豊かに育まれたロシアの大地。私はボリショイをこんな風に思います。これまで何度かボリショイを見ていますが、特に今回のスパルタクスは悪代官クラッススが牛耳る帝政ローマを舞台に、ボリショイ独特の重厚な演技が際立っていました。シリアスなストーリーと共に繰り広げられる、男性陣の圧倒的な力強いジャンプと超絶技巧の数々。彼らがそのマッチョな体をフルに使って派手なジャンプを繰り返すサマは、素敵とか華麗というのではなく、豪快という表現がぴったり。バレエ界の格闘技。まさに戦うバレエ。この演目には悩める王子様・ダンスールノーブルはいりません。こういうどっしり系の集団が所狭しと飛び跳ねまくるのだから、大地を揺るがすような地響きがしても無理は無いでしょう。更にこの掛け声は私の錯覚でしょうか。「あらよっと!」「どっこいしょ!」「そいやっ!」。こんな時におなかを壊していたらもう最悪です。1ジャンプごとに胃にズンッ。1着地ごとに下腹部にドシッ。ですからスパルタクスを見る時には必ず体調を整えていきましょう。血圧や心拍数も要チェックです。ダンサーといえば羽が生えたように軽やかに宙を飛ぶイメージがありますが、マッチョな男性が群れをなして舞い上がる姿は、さながらジャンボジェットのよう。なぜあんな重いものが宙を飛ぶのか。

 

対する女性ダンサーはスパルタクスの恋人フリーギアと悪女エギナ。エギナ役のマリーヤ・アラシュは申し分なく悪女の条件を備えていて、天性の美貌に加えて、頭の先から足の先までしなるような思わせぶりたっぷりの動き。優美な動きの裏に何か策略を巡らしている様子が、その冷たい笑顔と射るような視線で表現されていました。とりわけ白鳥ではなく、眠りでもないこの大地の香りがするスパルタクスにあって、唯一都会的な硬質の演技だったといえるでしょう。個人的には今日の一等賞をこのM.アラシュにあげたいと思います。

「明日、バレエを見に行く」というと必ず戻ってくる答え。「まー、優雅でいいわね。」 Non, Non, Non!  羨ましがられてるのか、呆れられているのか、それとも妬まれているのか定かではないけれど、もううんざり。日本人宇宙飛行士が次々月に行く時代に、いつまでもそんなこと言ってるから芸術の裾野が広がらないのです。バレエは特権階級だけの高尚な趣味なのでしょうか。もとい、ここで偉そうに芸術などという言葉を使うのはやめましょう。理屈ではなく、ただ好きだからバレエを見るだけであって、他にどんな理由が必要だと言うのでしょう。


「Scullyさん、バレエときたらVリーグですね」。こんな風にジョークでかえしてくれる友達に感謝を込めて。


 

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